それはさておき、ひとまずワイン

貴腐ワイン

フランス・ボルドー・ソーテルヌ地区の「カルム・ド・リューセック2011」

塩尻・林農園五一ワイン

貴腐ブドウは食べるとものすごく甘い

 秋!ブドウの収穫時期です。

 今年はお盆明けから長雨で、日射量も少なく、病気が出てしまう所も多いようです。ブドウは病気に弱く「ベト病」「ウドンコ病」「遅腐病」など、いろんな種類があります。その中の一つに「灰色カビ病」という病害があります。病原体は「ボトリティス・シネレア菌」というカビの一緒で【写真中央】のように、果粒を灰褐色のカビが覆ってしまいます。今年のように、雨が多く湿度が高いと蔓延してしまいます。病気になってしまうと、その粒(時には房ごと)は使えないので、収量も少なくなり、選別しながら収穫しなければいけないので時間もかかります。自然が相手なので仕方がないことですが、生産者にとっては本当に悲しいことです。

 さて、ちょっとマイナスな話から入ってしまいましたが、今回のタイトル極甘口の「貴腐ワイン」はご存知でしょうか。17世紀の中ごろにハンガリー・トカイ地方でできた偶然の産物なんです。その頃、オスマン帝国がハンガリーに侵入、住民が逃げ回っていたので収穫が大きく遅れました。ようやく収穫となったものの、ブドウは病気に侵されていました。仕方なくワインを造ってみたところ、思いの外美味しかったのです。これが貴腐ワインの始まりと言われています。

 その後、フランス・ボルドー・ソーテルヌ地方周辺、ドイツやオーストリアなども造られるようになり、ルイ14世は「ワインの王にして、王のワインである」と絶賛。マリア・テレジア女王は「このワインには金がとけ込んでいるのね」と言ったとか。

 この貴腐ワイン、なんと「灰色カビ病」によって生まれるのです。あの写真のカビカビのブドウからですよ! ちょっと信じられないですよね。病原菌の「ボトリティス・シネレア」が一定条件で良い作用をすると、高貴に腐敗するのです。これが「貴腐ワイン」と呼ばれるゆえんです。どういうことかご説明します。

 ・完熟した葡萄に貴腐菌(ボトリティス・シネレア)が付く
     ↓
 ・果皮のロウ質を壊す
     ↓
 ・果汁中の水分が蒸発
     ↓
 ・凝縮され糖度が上昇
     ↓
 ・樹になったままカビの付いた干し葡萄のような状態になる

 ただ、白ブドウの中でも限られた品種(セミヨン、ソーヴィニョン・ブラン、シュナン・ブラン、フルミント、リースリングなど)しか貴腐化せず、粒によってはただの病果もあるのです。そして、特殊な気候的条件も必要ですので地域も限られてきます。また、房により発生状況が違いますので、一粒一粒「貴腐ブドウ」だけを摘み取るのは非常に大変な作業です。見分けるのに熟練の目も必要です。

 人為的にできるものでないので、年により収穫の量も違ってきます。1本のブドウの樹から通常ワインの1/10ほどしか生産されません。そのため、どうしても高価になってしまいます。ただ、安いものはボトルで3000円程のものもあります(ちなみに、長野県でも塩尻の林農園五一ワイン、サッポロの長野市古里にある自社農場でも貴腐ブドウが取れています)。

 極甘口なので、食後として飲まれることが多く、それだけでもデザートとして成立します。クリーム系やフルーツなどのデザートとの相性も良く、「え~!? 甘いお菓子と甘いワイン!? 口の中がアマアマになっちゃうんじゃないのー!?」って思われるかもしれませんが、不思議とワインの甘さよりも酸味が生かされて、とても美味しいんですよ。なんと、葉巻との相性もいいんです。温度は良く冷やしてお飲みください。

 糖度が高いので、長期熟成も可能です。自分の(プレゼントの)生まれ年のワインを探す場合、通常のワインより“ハズレ”が少ないかもしれません。「お子さんの生まれた年のワインを取っておいて、成人したら開けて一緒に」なんてのもいいですね。実は私、知人のお母さまの米寿のお祝いに空けた、貴腐ワインの最高峰と言われるシャトー・ディケム1922年、88年熟成したものを飲ませていただいたことがあるのです。そのときの感想をオステリア・ガットのブログをで書いてあるので宜しければご覧ください。

 http://gatto.naganoblog.jp/e617174.html

 甘いワインと言うと「女性の」とか「初心者の」と言われることも多いですが、私のお店のお客様でも食後に「デザートワインをください」と注文される男性がいらっしゃいます。「お!この人やるな~」とカッコ良く感じますよ。甘さにしても天然のものですし、酸味もあるのでとても複雑で長い余韻を楽しめます。

 さてさて、秋の夜長に読書でもしながらゆっくり「貴腐ワイン」いかがでしょうか。

2015年10月07日


バックナンバー

楽しむ

エンタメコラム
特選お役立ちコラム
中島麻希 信州FOOD記
成沢篤人 それはさておき、ひとまずワイン
横山タカ子 暮らしの調味料
東京アート日和
信州スポーツ
信州お天気手帖
イベント情報
イベント情報投稿
書籍・CDランキング
グローバルメニュー
  • 信毎デジタルパスポート
  • 信毎の本オンラインショップ
  • 信毎イベント&チケット
  • 信毎オリジナルグッズ