信州FOOD記

信州“珍”FOOD記~ビスケット天ぷら~

ビスケット天ぷら。作り方は簡単。衣をつけて揚げるだけ。おやつにして食べても美味しいです

ビスケット天ぷらに使われるビスケットはごくごく一般的なもの。身近なものだからこそ、定着したのだと思います。

珍しい天ぷら。あんこ海苔巻きの(左上)、野沢菜漬けのかき揚げ(右上の左)、さきイカとゴマのかき揚げ(右上の右)。私の地元、松代町では紅白の酒饅頭(左下)を天ぷらにします(右下)。面白い天ぷらがたくさんありますね

 友人や仕事仲間と雑談をすると、仕事柄、食べ物の話になることが多々あります。最近、そんな会話の中でとても驚いた食べ物があります。仕事で天ぷらの撮影をしていた時のこと。たしか、「○○の天ぷらって美味しいよねぇ」なんていう会話をしていた時に、白馬村出身の方が「そういえば、うちの実家のあたりって、お葬式の時に必ずビスケットの天ぷらを食べるんですよ」と。え?ビスケットの天ぷら? 私はとても驚きました。

 食べたことがないのはもちろんですが、見たことも、聞いたこともありませんでした。聞けば、白馬村や小谷村のあたりではお葬式の御斎(おとぎ)のとき、ビスケットの天ぷらが出てくるとのこと。どんな味なのか?どんな食感なのか? 小谷村の「おたり名産館」の細田いつさんにお話を伺いました。

 「戦後、ビスケットが日本で手に入るようになった頃、おやつとして食べられていたものが、いつしかお葬式の時に出すようになった」と言います。今はもうなくなってしまいましたが、「上高地ビスケット」という袋入りのビスケットが県内全域で売られていました。たしか、私も小さな頃食べたことがあります。この上高地ビスケットを使った天ぷらが定番だったそうです。ビスケットをそのまま食べるより、衣をつけて揚げた方が腹もちがよくなるということでおやつとして定着したみたいです。お葬式に食べられたというのは、信州らしい「もてなしの精神」が所以だと考えられます。

 昔から天ぷらはご馳走で、来客時や冠婚葬祭、お盆など、人が集まる時には天ぷらが欠かせませんでした。海なし県の信州では、エビなどの食材は簡単には手には入りません。野菜や山菜の天ぷらが定番ですが、冬はさらに食材調達が大変でした。今回色々と調べてみると、他にも珍しい天ぷらがあることがわかりました。「あんこの海苔巻き天ぷら」(大町市)、「野沢菜漬けのかき揚げ」(北信)、「おつまみのさきイカとゴマのかき揚げ」(長野市南部)、このほか、天ぷら饅頭や干し柿、りんごなどなど…。人が集まる時、「天ぷらぐらい作らなきゃ」と工夫をこらしていた様子が伺えます。ビスケットもそんな中でお葬式の時に出し、定着したのでしょう。

 「最近は自宅でお葬式を執り行うことも少なくなって、御斎でビスケットの天ぷらも滅多にみなくなった」と細田さん。これも地域の伝統的な食文化だと、現在でも冬の間、「おたり名産館」で干し柿、りんごの天ぷらなどとともに出しているそうです(山菜の季節には春の天ぷらに切り替わるので、4月中旬まで)。「上高地ビスケット」がなくなってしまったので、現在はそれに似た「かあさんケット」というビスケットで作っています。

 どんな味なのか、気になったので私も作ってみました。かあさんケットと似ていて、白馬村の知人も使っているという「森永マリー」で作ってみました。天ぷらにすることで少し食感がやわらかくなり、これならお年寄りも、小さなお子さんも好きだろうな、という味。白馬出身の人に聞くと、「お葬式といえばビスケット天ぷらを思い出す」というほど、欠かせないものだったそうです。冠婚葬祭の形態が変わりゆく現代。きっと薄れていってしまう食文化でしょうが、記憶の中だけでなく行事に欠かせないものとして、おやつとして、このビスケット天ぷらを継承していってほしいものです。

2017年3月31日


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