信州FOOD記

信州から世界へ

1本1本丁寧に焼き鳥を焼くマスターの塩原啓一さん。レバーは角が立っているとてもフレッシュな状態のものしか使いません

「とりわさ」に驚いていたオーストラリアから訪れたゲランさんとエバさん。初めて食べた半生の鶏肉は衝撃の美味しさだったそうです

松本だけでなく、世界の人々に愛される鳥心の焼き鳥。特にササミフライ(右下)は火入れ加減が絶妙です

 多くの外国人観光客が信州に訪れています。その数もシーズンを通して変動するようですが、最近は紅葉の時期にどっとやってくるとか…。長野駅周辺のいわゆる「立ち食いそば」の店でも、大きなリュックサックを背負った欧米人の姿を目にすることがあります。箸を上手に使い、そばをすすっていました。

 私が住む長野市松代町に昨年の春、ゲストハウスがオープンしました。そのせいか個人旅行を楽しむ外国人をよく見かけるようになりました。団体旅行とは違い、食べることも自分たちで考えなければいけない個人旅行。信州にやって来た彼らは一体どんなものを食べているのか? とても気になります。「ゲストハウス布袋屋」のオーナー山本薫さん(48)に聞いてみました。「年齢や国籍、個人によって求めるものも様々。ゲストハウスのキッチンで自炊する人もいるし、外食の場合はラーメン、そば、うどんなど、麺類を好む人が多い。あとは、近所の居酒屋や焼き鳥屋さんを紹介したりしていますね」とのことでした。

 先日、私のお気に入りの松本市の焼き鳥店「鳥心(とりしん)」に行きました。ここも最近、外国人観光客の姿が目につくようになりました。偶然、両隣が外国人客に! 英語があまり得意ではないのですが、ドキドキしながら、彼らがどんな焼き鳥を食べるのか、横目で観察してみました(後で話しかけましたよ)。

 オーストラリアのメルボルン在住でフランス出身のゲランさんと、ギリシャ出身のエバさんの2人は、ひとしきり食べた後、最初に出た一品が気になったようで、眉間にしわを寄せながら店員に「何の料理?」と尋ねました。店員さんも英語が得意ではないみたいでしたが、「鳥わさ、生の鶏肉のササミ」と伝えました。
 「Raw Chicken? Unbelievable!」(生の肉なの? 信じられない!)
と声を上げる女性。そしてもう一度、
 「Raw Chicken?(本当に生の鶏肉なの?)」
と聞き直していました。

 エバさんが食べたのは、この店の人気メニューの一つ「とりわさ」。新鮮な鶏のササミをさっと湯通しし、特性のしょうゆだれと和え、ワサビ、ミツバ、きざみのりを添えた一品。ところがエバさん、「鶏肉は生(厳密にいうと、とりわさは生ではありませんが…)では食べてはいけないと言われ、それを信じて生きて来た」と。完全に火が通っていない鶏肉は「危険なモノ」と信じていたそうです。ショックを受けたと同時に、その美味しさに驚きを隠せない様子でした。

 逆の隣に座ったカップルも注文に入った様子。そこで耳に入った驚きの言葉が。
 「She is “No Meat”(彼女はお肉が食べられないんだよ)」。
 ベジタリアン(菜食主義者)なの? 今度は私が“アンビリーバブル!” 店員さんたちも戸惑った様子ですが、ベジタリアンのお客さんは初めてではないとのこと。野菜やキノコ、ウズラの卵の串焼きを薦めていました。

 開店から31年、地元の人たちに愛される人気店ですが、雑居ビルの奥の方で営業しています。通りがかりでふらっと立ち寄れる店ではありません。彼らはどうやってこの店の存在を知ったのか? つたない英語を駆使して聞いてみました。

 2組の共通点は「旅行者向けの口コミサイト」。それが情報源でした。店主の塩原啓一さん(66)によると、今年に入ってから急に外国人観光客が大勢訪れるようになったそうです。白馬村に住む外国人の1人が店の常連で、「旅行者向けの口コミサイト」に店の情報を投稿したそうです。「それが外国人客が増えた理由では?」と話します。

 店には英語のメニューがありません。英語で流暢に料理の説明ができる従業員もいません。それでも、「焼く前の串に刺さった状態の肉を見せたり、身振り手振りでも、十分理解してもらえる。そして、焼き鳥を美味しそうに食べてくれるんだ」と塩原さんは胸を張ります。「美味しいものを食べたい」という思いは万国共通。そして、作り手の「美味しいと言ってもらえるように」という心意気も言葉は通じなくとも伝わるのだと実感しました。

 それにしても、「口コミサイト」による情報の広がりは驚くものがあります。「こんなに美味しいものがあった!」という感想が、世界各地の観光客の足を信州に向けさせる可能性がある気がしました。

■鳥心(とりしん)
松本市中央1-2-24 やまがビル1階

2016年12月01日


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