信州FOOD記

皆に愛されるソウルフード~佐久市臼田の“むしり”

<上>こんがり、きつね色に焼けた「むしり」。レモンをキュッと絞っていただきます。外はパリッと、中はジューシー。一人で半身、じゅうぶん食べられます <下>手で豪快にむしりながら食べるのが「むしり」の食べ方です

<上>オーブンで約1時間ロースト。この間に余計な油が全部落ちて旨味だけが残ります。焼き方にもコツがありそう。予約の受け取り時間に合わせて焼き上げます <下>二代目の瀬川信吉さん。ひとつひとつ丁寧に作り続けています

「予約はしていないんだけどあるかな?」というお客さん。たまたま1つだけあり、「あぁよかった」と嬉しそうに購入していました

 今から数年前のこと(時期も同じ頃)。佐久市に住む方々とミーティング中、雑談になった時、
 「あ、むしり頼まなきゃ」
 「私はもう予約したよ」
というような会話を耳にしました。「むしり」という言葉を初めて聞いた私は何のことやらわかりませんでした。聞いてみると、佐久市臼田地区の名物料理で、クリスマスに頼む人も多いという鶏肉料理だということがわかりました。以来、ずっと気になっていたのですが、クリスマスが近くなってきたということで、今回取材に行ってきました。

 伺ったのは、佐久市臼田にある『若鶏 むしり瀬川』さん。ご主人の瀬川信吉(のぶよし)さん(67)にお話を聞きました。『瀬川』は1959(昭和34)年の創業。創業当初は焼き鳥屋でしたが、当時焼き鳥は決して珍しくなく、「何か他とは違うものを」と模索していたそう。東京オリンピックを前に、臼田町(現佐久市臼田)にブロイラー飼育場が多く作られ、それを見た先代の故・瀬川清さんが焼き鳥ではなく、若鶏を丸ごと焼くことを思い付きました。創業の翌年ごろのことでした。

 当時の平均月収は1万5千円足らず。1羽まるごとだと、どうしても500円ほどの値段になってしまい、中々手が出せません。そこで、半身250円として販売をはじめました。ナイフやフォークが一般的ではなかった時代。片手で肉を抑え、もう片一方の手で豪快に“むしり”ながら食べることと、肉をオーブンで“蒸し”焼きにすることから「むしり」という名前となりました。今でいう「ローストチキン」ですが、すっかり「むしり」が定着しています。

 幸い、当時は昭和39年の東京オリンピックに向けての高度経済成長期。外食産業も伸びていた時代でもあり、「むしり」はあっという間に人気メニューとなりました。

 早速私も食べてみました。こんがり、きつね色に焼けた「むしり」は見ただけでよだれが出そう。香ばしい香りも漂っています。信吉さんが「モモの部分にフォークを刺し、足をひっくり返すと取れるよ」と教えてくれました。そのようにやってみると、ジュワっと肉汁が流れ出しました。口にはこぶと…皮はパリッと。そして肉はとてもジューシーです。「これは美味しい!」思わず声が出ました。

 通常、丸ごとに近い状態で焼くと、味が表面だけについていて、中は味が薄くなってしまいがち。また、長時間焼いていると食感もボソボソしてしまいます。しかし、この瀬川さんの「むしり」は中もしっかり味がついていて、しかも、肉の厚い部分も薄い部分も均一の味なのです。そして、ジューシーなのに脂っこくありません。

 味付けはシンプルに塩、コショウのみ。シンプルなのに味わい深く部位によって味の差もない。何故なのでしょう。どんな味付け方法なのか聞いてみると、「これは秘伝の味付けだから企業秘密だよ」と信吉さん。試行錯誤を重ね、作り上げてきた味なのでしょう。お皿にのった状態のものを見ると、2人ぐらいで食べてちょうど良いかな?と思ったのですが、これはあっさりしているので1人で食べられてしまいます。聞けば、皆さん同じようで、「食べ始めたら1人で全部食べてしまいました」という人が多いそうです。

 奥様の真知子さん(64)と2人で「むしり」を焼き、販売していますが、その数は1日50~60個。どんなに忙しくてもこれ以上は増やしません。それは「品質を守りたいから」と信吉さんは言います。365日、ほとんど休みなくむしりを作っていますが、小さな子どもかたお年寄りまで、変わらずに愛される味を守るということは並大抵のことではありません。信吉さんは今でも2日か3日に一度は自らむしりを食べ、味を確かめているそうです。

 多くの人に愛されてきた「むしり」。近くを走る小海線は観光客に人気ですが、これを買うために臼田駅で途中下車する人も多いそうです。むしりを食べながらの車窓の旅も楽しそうですね。これから年末にかけ、最も忙しい時期となる瀬川さんですが、「クリスマスに限らず、いつでもこのむしりを食べて欲しい」と話していました。

 半身は980円(税込)で販売。『瀬川』は持ち帰り専門ですが、歩いて数分のところに息子さんが営むレストラン「ビッグベン」があり、そこでは瀬川さんが焼いた「むしり」を食べることができるそうです。佐久のソウルフード「むしり」、ぜひ豪快に手で食べてみてください。私もまた食べたくなって佐久まで車を走らせてしまいそうです。

2017年11月28日


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