信州FOOD記

皆に愛されるおやつ~富士アイスのじまんやき~

ガラス越しにじまん焼きを作るところを見ることができます。1日に多い時には20貫(1貫は約3.736kgなので約75kg)の粉を使うそうです。自家製のアンコは2~3日に1度、1回に88kgの小豆を使って作ります。小豆は十勝産の上質なものを使用

<写真上>2代目の北川量三さん(右)と3代目の大さん。<写真下>閉店間際まで富士アイスの前には焼き上がりを待つお客さんが

<写真上>志に濁点をつける「じまんやき」 <写真中>じまんやきは昔ながらの「経木」に包んだあと新聞に包みます <写真下>1粒1粒がしっかりしたアンコがたっぷ

 幼少時代から食べ続けているおやつがあります。私の“味の記憶”では、ずっと“変わらない味”として認識しているもの、それが上田市海野町商店街にある「富士アイス」の「じまんやき」です。じまんやきとは、「今川焼」や「大判焼」「太鼓焼」など、地方やお店によって様々な呼び名があるアンコやクリームが入った丸い饅頭です。

 約40年生きていると、ずっと好きだったものが、お店がなくなってしまったり、味が変わってしまったりと、様々な理由である時から食べなく(食べられなく)なってしまうことも少なくありません。しかし、このじまんやきはお店の雰囲気も味も、ずっと変わらないのです。今回は、富士アイスの2代目、北川量三さん(78)にお話を伺ってきました。

 まず驚いたのが「富士アイス」は県内外に10店舗以上あるお店だということ。しかもそれが全て親類でやっておられるということにビックリ。ここ上田店は、量三さんの父親、時雄さんが昭和10年、現在のお店から約200m離れた海野町の交差点の角に、「富士屋」という名前で開店しました。元々は時雄さんの弟(今朝治さん)が甲府市に1号店を開店させたことからはじまりました。今朝治さんは甲府の炭屋に奉公に出ていました。そこでじまんやきを扱っていて、作り方を覚え独立したそうです。その後、親類たちが諏訪市や岡谷市をはじめ静岡や千葉、岐阜に「富士アイス」を開店し、現在は山梨県で6店舗、岐阜県で3店舗、長野県内で3店舗を営業しています。

 戦中、海野町を通る街道が、東京と大本営が置かれる予定だった松代町を結ぶ「御用道路」に指定されました。その際、現在の場所に移転して「富士アイス」と改名。以来この地で営業を続けてきました。現在は量三さんと3代目の大さん(47)を中心に切り盛りしています。

 「富士アイス」はその名前の通り、創業時からアイスキャンディーやアイスクリームも扱ってきました。でもやはり看板商品はじまんやき。富士アイスという屋号よりもじまんやきの方が有名だと量三さんも言いますが、私自身もじまんやきの方がなじみ深い。このじまんやき、「じ」は「志」に濁点をつけた文字が昔からの表記です。なぜこの字なのか、誰も先代や創業者に聞いたことがないそうで、「永遠の謎だ」と量三さんは言います。

 じまん焼きは2種類、アンコとクリームがあります。中に入れるアンコも店内で炊いています。変わらない味のじまんやきですが、昭和40年代に1度、アンコの味を時代に合わせ、甘さ控えめに改良したそうです。控えめにした分、入れる量を多くしたとのこと。クリームは「富士アイス」全店で県外の業者に委託して作っているそうですが、このレシピは富士アイスだけのもので、門外不出なのだそうです。それだけ大事にしてきた味だということ。

 1日中途切れることなく多くのお客さんが訪れますが「作りたてを食べて欲しい」と作り置きはしません。時には長い行列ができることも。ガラス越しに「じまんやき」を焼いているのを見るのも楽しみの一つで、私も「あ、あのアンコが多いのがまわってくればいいな~」などと思いながら並んでいます。

 お客さんの90%以上はリピーターで、2代、3代にわたって通うお客さんも大勢います。1個80円という価格は30年以上変えておらず、その良心的な価格から、地元の学生が学校帰りに「1個ください」とやってきます。「たった一個だけど、そのお客さんが大人になって10年後、20年後には“10個”買うお客さんになる。だから“1個を大事に”と従業員たちに伝えている」と量三さん。買いに来られていた上田市内の女性(60代)は、「子供達も大きくなり、それぞれ独立したり家族の形態が変わったけれど、全員が集まる時には必ずじまんやきを買うんです」。

 量三さんは、先代の時雄さんと弟の今朝治さんをはじめ、親族がとても仲がよく、切磋琢磨しながら作り上げてきたからこそ、今の「富士アイス」があり、それをとても誇りに思っているそうです。「じまんやきを愛してくれるお客さんのために、これからも作り続けたい」と話してくださいました。直径10cmに満たないじまんやきに、多くの思いや歴史が詰まっているのだとあらためて感じました。まさに“自慢”できる信州を代表するおやつ。これからもずっと変わらぬ味であって欲しいです。

2017年9月14日


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