信州FOOD記

思い出の味を求めて~地獄谷温泉「後楽館」のちまき

ちまきは1人前5で750円(税込)。砂糖と少しの塩が入ったきなこをつけていただきます。昔から変わらず、二等辺三角形です

地獄谷温泉の間欠泉の傍に建つ「後楽館」。敷地内にあるちまきの石碑。俳人富田うしほ氏の句「峡宿の粽にこもる湯の香かな」が刻まれています。後楽館の敷地内にもサルが来ていました

ちまきを作る竹節喜久子さん。お話しながらもどんどんちまきが巻き上がっていきました

 日本国内だけでなく、海外からも多くの観光客が訪れる山ノ内町の地獄谷温泉。温泉に浸かる「スノーモンキー」が人気の野猿公苑には私も幼少時代より家族で行ったり、小学校の遠足で行ったりと何度か訪れています。でも、私にとっては「スノーモンキー」よりも強く記憶に残っているものがあります。

 地獄谷温泉の名前の由来にもなった“ゴーゴー”という音とともに吹き上げる間欠泉の傍に立つ温泉宿「後楽館(こうらくかん)」。こちらでいただけるのが名物の「ちまき」。どうやら、子どもの頃から「食べる」ということには人一倍興味があったのか、サルを見た記憶よりもこのちまきの記憶の方が鮮明なのです。ちょっと甘めのきな粉をつけて食べるちまきの美味しい記憶。時折、その記憶が蘇り、「ああ、また食べたい」と思ったことも少なくありません。今回、この美味しい記憶を求めて地獄谷温泉へ行ってきました。

 後楽館は江戸末期の1864年(元治元年)にこの地で営業がはじまった老舗旅館です(当時は明治楼という名前でした)。今でも宿まで車でいくことはできません。まさに秘境の温泉です。囲碁の“新布石発祥の地”として、また多くの詩人や作家に愛された宿としても知られています。

 後楽館で作られるちまきは、明治時代に当時の当主竹節トミさん(4代目)が始めました。度々水害に悩まされていたことから中国の屈原の故事に習い、水害を起こす龍蛇の霊を慰めるために、糯(もち)米をクマザサで包み、温泉で煮たちまきを捧げるようになったそうです。その後、トミさんの娘の春枝さん(故人)が引き継ぎ、現在は孫の喜久子さん(76)が作っています。クマザサに包まれた餅米のちまきは、地獄谷温泉の湧き出している温泉水で煮あげたもの。

 まずは早速、思い出の味との再会です。5つ束ねられたちまき。見た目は子供の頃の記憶より小ぶりになった印象。開くと思い出通り、少し黄味がかったツヤツヤのもち米が現れました。そして二等辺三角形の形も懐かしい! 添えられたきな粉につけて食べると、一気にその“味の記憶”が蘇りました。小さな時に食べた印象そのもの。昔食べたものは先代の春枝さんが作ったものですが、今回食べた喜久子さんのちまきも変わらぬ美味しさでした。ほのかに残る温泉の香り。砂糖と少しの塩が入ったきな粉がこの味を引き立てていて、本当に懐かしく、変わらぬ美味しさがとても嬉しかったです。

 喜久子さんはこの日も「ちまき」を巻いていて、その間にお話を伺いました。少し小さくなったかな?と思ったちまきの大きさは、時代に合わせて少し小さめにしたとのこと。「最近の人たちは昔に比べてお米を食べないからね」と言います。宿泊や日帰りともに、国内外から多くの観光客が訪れる後楽館ですが、米を食べる文化がない欧米の方はちまきを食べないそう。でも、中国などアジアからの観光客は喜んで食べてくれるようです。話している間にもどんどん巻かれていくちまき。笹を手に取り、くるっと丸めてもち米を詰め、イグサで結びます。その間約20秒。これを煮あげると、一つちょうど50g、大きさは8cmほどのちまきになります。

 私のように、小さな頃食べたという人も多いそうで、「思い出して来てくれるのはとても嬉しい」と喜久子さん。昔は数えられないほど多くつくることもあったそうですが、いまは多くても1升ほどなのだそうです。「少しずつでも、元気でいるうちは巻きつづけたいし、次の世代にも繋いでいきたい」と力強く話してくださいました。

 思い出の味というものは記憶の中で美化されて久しぶりに食べると「アレ?こんな味だった?」と思うことも少なくありませんが、後楽館のちまきは味覚の記憶の通りで、懐かしさがこみあげるものでした。これから秋になると紅葉シーズンとなります。赤く染まった地獄谷温泉で多くの人たちに愛されてきたちまきを食べてみませんか。

2017年8月31日


バックナンバー

楽しむ

エンタメコラム
特選お役立ちコラム
中島麻希 信州FOOD記
成沢篤人 それはさておき、ひとまずワイン
横山タカ子 暮らしの調味料
東京アート日和
信州スポーツ
信州お天気手帖
今日の運勢
イベント情報
イベント情報投稿
映画館情報
書籍・CDランキング
パズル
グローバルメニュー
  • 信毎デジタルパスポート
  • 信毎の本オンラインショップ
  • 信毎イベント&チケット
  • 信毎オリジナルグッズ