汐留鉄道倶楽部

消えるべき鉄道風景

2018年12月21日

 手前の車両がホームの限界。はみ出した車両は踏切をふさいだ状態で停車する。

 駅に電車が停車している間、踏切の警報音は鳴りっぱなしだ。

 消えて歓迎されても惜しまれないであろう「消えるべき鉄道風景」を見ようと、東急大井町線を訪ねた。

 将来、リニア中央新幹線の始発駅になる品川から、駅名をめぐって話題沸騰中の高輪ゲートウェイ(建設中)とは逆方向に、京浜東北線で1駅の大井町へ。駅の周りに多くの商業ビルが林立するこの街から、世田谷区や川崎市の住宅地へ向かって北上するのが大井町線だ。

 大井町線には急行電車も走っているが、目的地が急行通過駅なので各駅停車を選んだ。溝の口行きの先頭車両に乗ってドアをチェックし、大井町線名物といえる「このドアは九品仏駅では開きません。ご注意ください」のステッカーを確認した。試しに2両目に移動してみると、先ほどのステッカーは無い。

 駅間が短いからか、各駅停車はあまりスピードを出さない。のんびり静かに走る電車に揺られて約15分。「次の九品仏では、一番前の車両のドアが開きません。お降りの方は後ろの車両をご利用ください」との案内放送が流れた。いよいよ九品仏だ。

 電車からホームに出ると、先頭車両はホームからはみ出しており、もちろんドアは閉まったままだった。各駅停車は5両編成なのに、九品仏のホームが4両分しかない。このように、駅で一部のドアを閉めたままにしておくことを「ドアカット」と呼ぶらしい。

 しばらくホームに残って、反対側の各駅停車を待った。大井町行きの電車は、最後尾の車両がホームからはみ出したまま停車した。

 ホームのすぐ脇には踏切があり、その先に小さなホームのような設備が見えた。筆者が乗ってきた溝の口行き電車を観察しても、用途がよく分からなかったが、この設備は「大井町行きの車掌さん専用ホーム」みたいなもので、車掌が降り立ってドア開閉をするために使われていた。

 そんな様子を見学していたら、駅の外から見たくなった。ホームの溝の口寄りの端っこから、改札口のある大井町寄りに向かった。島式ホームを歩くと、気分の問題かもしれないが短く感じた。

 大井町寄りの端っこは階段になっていて、下っていくと線路に挟まれた「島式駅舎」とでも呼びたくなる小さな駅舎へ続く。改札口を出てすぐは、踏切と踏切に挟まれた道路の一部なので、踏切を渡ってようやく駅から外の街へ出た感覚になった。

 大井町線とほぼ並行するバス通りに出ると、交差点の反対側に九品仏浄真寺への参道があった。駅名の通り九品仏が参詣駅であることをかみしめつつ、先ほどホームから見えた溝の口寄りの踏切まで歩いた。大井町寄りの踏切が自動車の離合が可能で歩行者も多いのに対し、ここ溝の口寄りの踏切は人も車もまばらな一方通行の細道だった。

 地元の人には申し訳ないが、「だから電車が停車する際、こちらの踏切にはみ出すのか」と納得した。踏切を渡りながらチラッと見た車掌専用ホームは、どれほど古いのだろうか木製だった。最新のホームドア(筆者が訪れた際は設置工事中)を備えた旅客用ホームと好対照で面白い。

 筆者が子どもの頃には、大井町線の戸越公園、東急東横線の代官山や菊名、京王井の頭線の神泉などにもドアカットがあった。いずれもホーム延伸に伴い、解消されていった。

 今も東京23区でドアカットが残る駅は、九品仏と東武スカイツリーライン(伊勢崎線)の浅草ぐらいだ。どちらも地理的な理由で現存する「消えるべき鉄道風景」だが、解消される見通しは立っていない。

 ☆寺尾敦史(てらお・あつし)共同通信社映像音声部。冬季に駅停車中の車内を冷やさないよう一部のドアを閉めることもドアカットと呼ぶそうです。そんな優しいドアカットはむしろ広まってほしいですね。


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