香山リカ てのひら診察室

「ゲノム編集ベビー」の事実検証を

2018年12月07日

 

 中国で誕生したとされる「ゲノム編集ベビー」。エイズウィルスに感染した父親を持つ受精卵のゲノムを操作し、ウィルスに感染しない耐性を付与し、母親の子宮に戻された。受精卵はその後、順調に発育し、双子の女児が誕生したとされる。

 2013年にクリスパー・キャス9という新しいゲノム編集ツールが生み出されると、細胞や受精卵の遺伝情報の削除、加工、編集などがこれまでとは格段にやりやすくなり、病気の遺伝子治療や受精卵の段階での遺伝病治療が一気に実用化の見通しとなった。ただ、受精卵で一度、改変された遺伝情報はそれ以降の世代にも受け継がれることなどから、実際にヒトにその技術を用いることに対しては、大半の科学者が慎重論を唱えていた。そんな中、今回、中国の科学者はまさに禁を破って新生児を誕生させたのである。

 世界はこのニュースに驚き、同時にフライングに対して非難の声もあがった。学会でこの成果を発表した中国人科学者はその後、消息がつかめず、逃亡したとも大学に軟禁されたとも伝えられる。

 今回のニュースは、「父親の病気に感染しにくい子どもが生まれたんだから、いいじゃないか」と言ってすませることはできないような、大きな倫理的問題を有している。いったんゲノム編集が行われるようになると、「より優秀な子どもを作ってほしい」と優生思想が入り込むのは目に見えている。また戦争となると、「敵国の国民が遺伝子病にかかるようにして殲滅させたい」と考える人も出てくるかもしれない。

 なぜ禁を破ってこの技術の応用に走ったのか。中国は当事者の学者を軟禁したり口をつぐませたりしないで、ぜひ本人の口から一部始終を聞かせてもらいたい。そして、しっかりした倫理規定を作って、世界で足並みをそろえてそれを守る、という取り決めをしてほしい。今回のケースがのちに「人類の滅亡はあのとき始まった」などということにならないためにも、事実の検証がなんとしても必要だ。(香山リカ、426回)

☆かやま・りか 1960年札幌市生まれ。立教大現代心理学部教授。現代人の心の問題を中心に、社会批評など多彩な分野で活躍。「しがみつかない生き方」「『看取り』の作法」など著作多数。


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