香山リカ てのひら診察室

ネット上の問題行為を止めるには

2018年6月29日

 

 6月24日、福岡市でインターネットセキュリティー関連会社の男性が、同市に住む男性に刺殺される事件が起きた。容疑者は42歳、被害者は41歳とほぼ同年齢だった。被害者は人気ブロガーとしても知られていたが、その日は講演会の講師として福岡市を訪れ、凶行にあったのだ。

 このふたりには面識はなかったが、容疑者はいわゆる引きこもり生活でネットで多くの時間を費やし、他人のブログに誹謗中傷のコメントをする“荒らし”と呼ばれる行為を繰り返していた。それを被害者のブログで取り上げられたことを恨みに持ち、今回の犯行に及んだと考えられる。

 ネットでのやり取りだけで相手を恨み、殺害するというのは常識的には考えられないことだ。従来なら「容疑者は一方的な被害妄想を持っていた」とされるケースだろう。しかし、今回の場合は単なる妄想ではなく、被害者は実際にブログで容疑者の荒らしの行為に言及していた。おそらく注意を促し止めさせるのが目的だったのだろうが、それを容疑者は「完全にバカにされた」と思い込んだわけだ。

 ネットが生活のすべてになっている容疑者にとっては、人気ブロガーから批判されるのは生きる場所を失ったに等しいことだったのかもしれない。しかも、そうなりたくなければ荒らしを止めるべきなのに、それ以外、容疑者には自分の存在をアピールする手立てがなかったのだろう。

 もちろん被害者にはなんのとがもなく、容疑者が全面的に悪いのは明らかだ。その上で、今後同様の事件が起きないようにするために、どういう手が打てるかを考える必要もある。ひとつは、自由や自律が信条のネットとはいえ、ひどい誹謗中傷や差別のような問題行為に対しては、個別のユーザーがではなくて、運営サイドが注意をしたり場合によっては投稿を削除したりすることだ。それによって特定の個人が恨まれる可能性はかなり下がるのではないか。自由と野放しは違う。ネットがこれほど普及したいま、そのことを改めて考えるべきではないか。(香山リカ、403回)

☆かやま・りか 1960年札幌市生まれ。立教大現代心理学部教授。現代人の心の問題を中心に、社会批評など多彩な分野で活躍。「しがみつかない生き方」「『看取り』の作法」など著作多数。


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