香山リカ てのひら診察室

大災害と仕事

2018年6月22日

 

 大阪府北部を震源として関西に大きな地震が発生した。5人が亡くなり、負傷者は多数、建物やライフラインに大きな被害が出た。関西の友人たちにメールなどで連絡を取ると、「天井の照明が落ちてきて怖かった」「食器が散乱して足の踏み場もない」など生々しい返事が来た。「大きなケガがないならまずはよかった」と伝えると、多くの人は「これから会社に行く」と言う。「電車は止まっているようだけど、本日休業という連絡が来ないからにはなんとしても行かなくては」と言っている人もいた。

 「とにかく仕事へ」という職務意識の高さは、日本人の長所のひとつといえよう。夜間に発生した熊本大地震の被災地でも、「翌朝9時には全員が出勤していた」という会社の話を聴いたことがある。

 しかし、精神科医として私は少々、心配になる。大きな災害があったときは、家屋や調度品の被害などもさることながら、ショックや恐怖から心も甚大なダメージを受ける。とくに小さな子どもや高齢者は心の被害が大きい。そういうときはなるべく家族がいっしょにすごし、少なくとも数日は仕事から離れるか量を減らすかして、気持ちを落ち着かせることが大切なのではないか。

 もちろん、そうは言っても業務は待ってはくれない。医療や報道などどうしても休むわけにはいかない、という職種もあろう。とはいえ、いま急いで仕事をしてあとあとまで心のダメージを引きずるか、それともまずはからだと心を休めて回復させたり家の片づけをしたりして、それからゆっくり仕事を再開するか、どちらがより望ましいかは明らかなのではないだろうか。大きな災害が起きたら、特別な場合を除いて仕事はなるべく休みにする。そういうルールを作ってはどうか、と言ったら勤勉な人たちから白い目で見られてしまうのだろうか。(香山リカ、402回)

☆かやま・りか 1960年札幌市生まれ。立教大現代心理学部教授。現代人の心の問題を中心に、社会批評など多彩な分野で活躍。「しがみつかない生き方」「『看取り』の作法」など著作多数。


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