香山リカ てのひら診察室

若者はどこに居場所を見つけるか

2018年6月08日

 

 東京・秋葉原の歩行者天国で10年前の6月8日、17人が無差別に殺傷される事件が起きた。トラックで突入して多くの人をはね、そのあとナイフでさらに何人をも刺した当時、25歳だった加害者は、いま死刑囚として日々を送っている。

 裁判で加害者は、「インターネットでの嫌がらせをやめてほしかった」と動機を語った。厳格な家庭で育ち、親の期待に応える進路に進めずに地元を離れ、派遣社員として暮らした地域でも“居場所”を見つけられなかった。唯一、自由に思いを発信できたネット空間でも嘲笑されたと感じ、自暴自棄になって起こしたのがあの事件、と言いたかったのだろうか。

 もちろん、そんなあまりに身勝手な理由で人生を奪われ、家族を奪われた人のことを思うと、どれだけ時間がたっても加害者を許せないのは当然だ。ただ、加害者のように「居場所がない」「誰にも受け入れてもらえない」と考える若者はいまも大勢おり、それへの有効な解決策は相変わらず見つかっていない、という別の問題も考えなくてはならない。

 昨年は、そういう若者たちが自殺願望を抱き、SNSにそれを書き込んだことがきっかけで呼び出され、殺害されるという事件が座間市で起きた。少年の非行事件は減っているが、自殺はむしろ増加傾向にある。「生きていても仕方ない」という絶望感を、他者への攻撃にではなくて自分に向けるケースが増えているともいえる。

 秋葉原の事件のあと、「自殺衝動から通り魔殺人を起こすなんて最低だ。そう思うならひとりで死ぬべき」といった発言をする人がいたが、未来ある若者が自分で命を絶つこともまた、あってはならないと思う。「若者はどこに居場所を見つけるか」という永遠の問いについて、私たちおとなは考え続け、手をさしのべ続けるのを決してやめてはいけないだろう。(香山リカ、400回)

☆かやま・りか 1960年札幌市生まれ。立教大現代心理学部教授。現代人の心の問題を中心に、社会批評など多彩な分野で活躍。「しがみつかない生き方」「『看取り』の作法」など著作多数。


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