香山リカ てのひら診察室

70歳、80歳になって「過労うつ」で苦しむ人と診察室で会うのは避けたい

2018年6月01日

 

「人生100年時代」が来るそうだ。自民党にはすでにその戦略本部もあり、部長の岸田文雄議員らが定年のない「エイジフリー社会」の構築を模索して行くそうだ。

 私はこれには手放しでは賛成できない。もちろん、「年齢にかかわらず働きたい人が働ける」のは悪いことではない。労働人口が減る日本では、とくにシニアの働き手を大切にしなければならないのもたしかだ。

 しかし、診察室には働きづめで60歳あるいは65歳を迎え、ボロボロになって「過労うつ」になる人が大勢、来る。私はその人たちに、「ようやく仕事から解放されるのですから、これからはゆっくり自分らしく生きたほうがいいですよ」とアドバイスする。とくに日本にはまじめな人が多く、いくら「自分のペースで」と言われても仕事となるとつい、全力投球してしまうのである。

 その人たちが、「さあ、これからは定年がなくなりました」と言われたらどうするか。いくら自分でリタイアする年齢を決められるとは言っても、「じゃ、何歳まででも働きます」とそれこそ一生、黙々と会社のために働き続けてしまうのではないか。

 最近よく、「8時間働き、8時間眠り、8時間は自由時間。それが人間らしい毎日」と言われているが、人生そのものも同じ。20代から60代までを社会のために仕事で費やしたら、残りは趣味でも旅行でもボランティアでも、なるべく自分や家族のために気がねなく使う、というのは人間らしい生き方なのではないだろうか。

 もちろん、それでも「いや、働きたい」と思う人はそれを選択してもよいのだが、70歳、80歳になって「過労うつ」で苦しむ人と診察室で会うのは避けたいな、とつくづく思うのである。(香山リカ、399回)

☆かやま・りか 1960年札幌市生まれ。立教大現代心理学部教授。現代人の心の問題を中心に、社会批評など多彩な分野で活躍。「しがみつかない生き方」「『看取り』の作法」など著作多数。


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