香山リカ てのひら診察室

あいまいな記憶

2018年5月11日

 

 柳瀬元首相補佐官の参考人招致が国会で行われた。以前は愛媛県や今治市の職員に官邸で会ったかときかれ、「記憶の限りではない」と答えていたが、一転して「官邸で10人ほどと面会した中にその人たちもいた」と話した。話の内容などについては「メモを取っていなかったので」とあまりくわしくは話さなかったが、首相からの指示や報告については「ない」とはっきり否定した。

 テレビのニュース番組などでも、「柳瀬氏、記憶戻る」というキャプションガつけられていて思わず苦笑してしまったが、重要な問題についてこれほど記憶が失われたりまた戻ったり、その内容にムラがあったり、ということはありえるのだろうか。

 精神医療の範囲では、ショックなできごとがあったときなどに、それから心を守るために自動的に記憶を消そうとする「心因性健忘」という状態が起きることもある。そのバリエーションで完全に忘れないにしても、「あれは事実だったのか、それとも夢で見ただけか」とリアリティがはっきりしないのは離人症状と言われるが、柳瀬氏はそういう状態だったのだろうか。万が一、それに近い状態だとすると、加計学園の関係者と面会したことじたい、あるいはそれが愛媛県の職員のメモにより判明したことじたいが、それほど柳瀬氏にとってはショッキングだったということになり、疑惑はさらに深まる。そしてもちろん、意図的に「記憶にない」「思い出した」と言っているなら、さらに問題だ。

 「大勢の人に面会するから記憶はあいまいでも仕方ない」と言う人もいるが、こと何十年ぶりの獣医学部新設という重要な問題に関して、「多くの案件のうちのひとつ」と考えるのはあまりに不自然。元首相補佐官の“あいまいな記憶”が何に基づくものなのか、ぜひはっきりさせてもらいたいと思う。(香山リカ、397回)

☆かやま・りか 1960年札幌市生まれ。立教大現代心理学部教授。現代人の心の問題を中心に、社会批評など多彩な分野で活躍。「しがみつかない生き方」「『看取り』の作法」など著作多数。


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