香山リカ てのひら診察室

権力者のメンタルを語る動きが起こるのか?

2018年1月12日

 

 アメリカで、ジャーナリストのマイケル・ウォルフ氏が書いたトランプ政権の暴露本、『炎と怒り』がたいへんな話題だ。この本がセンセーショナルなのは、先日、来日した大統領の元主席戦略官のスティーブ・バノン氏ら多くの側近や元側近が、大統領を「完全にのろまだ」「幼稚園児並み」とあまりに辛らつな言葉で批判していることだ。それらは単に性格が歪んでいるとか個性的だとかいうレベルを超えており、メディアでは「そもそも大統領になる知的能力がなかったのでは」「なんらかの精神的不調が発症しているのでは」といったかなり踏み込んだ議論も巻き起こっている。

 昨年はアメリカの精神科医ら27人が、トランプ大統領のメンタルヘルス問題について論じる本を出版し、これも大きな話題となった。ただ、その本では「著名人のメンタルについて診察をしていない医師が語るのは是か非か」「トランプ氏が人気を集めるアメリカ社会の問題は」といったテーマに多くが割かれ、大統領自身は正常か否か、病名は何か、といった具体的な話はごく一部の専門家が述べていただけであった。それは、アメリカ精神医学会には著名人の精神状態について専門家が語るのを禁ずる倫理規定があるからだ。

 今回の暴露本の出版で、アメリカの人々はもはや一線を越えて、大統領の精神の健康や病理について語るようになるのかもしれない。学会の倫理規定の見直しあるいは有名無実化が起きる可能性もある。それははたして世の中にとってよいことなのか。さらに、日本でもこの流れを受けて、「精神科医など心の専門家が権力者のメンタルを語る」という動きが活発化するのか。いまは事態を見守るしかないが、トランプ氏の大統領就任1年を控えて、アメリカでは何か大きな動きが起きそうだ。日本政府にも、これまで通りトランプ政権への全面的な支持を表明し続けることに益があるのか、考えてみてほしいと願う。(香山リカ、381回)

☆(かやま・りか) 1960年札幌市生まれ。立教大現代心理学部教授。現代人の心の問題を中心に、社会批評など多彩な分野で活躍。「しがみつかない生き方」「『看取り』の作法」など著作多数。


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