香山リカ てのひら診察室

増えている「こじれる母娘」

2017年4月21日

 

 2009年に起きた男性3人の連続不審死事件で殺人罪などに問われ、一、二審で死刑判決を受けた木嶋佳苗被告の上告審判決で、最高裁は上告を棄却、死刑が確定した。木嶋被告は裁判中に結婚し、いまは「土井」という姓なのだという。

 最高裁判決に先立ち、その手記が週刊誌に発表されたが、そこには拘置所での生活や逮捕後の結婚、離婚、再婚についてが生々しい言葉で記されていた。

 中でも印象的だったのが、木嶋被告が拘置所内でも「明治屋のコンビーフ」「ラルフローレンの服」などブランドにこだわった生活を送っていることだ。また、「一度結婚したことで、色恋抜きの人生は考えられなくなった」などと恋愛や結婚の“勝ち組”であるかのような記述も目立つ。木嶋被告は婚活サイトで知り合った男性たちに「自分はセレブ」と見せかけて接近していたのだが、そのプライドの高さは少しも変わっていない。

 いったい彼女は何に対してそこまで虚勢を張っているのか。今回の手記で、その動機に「母が自分の生命を否定している」という感情があることが明らかにされる。木嶋被告は自分の父親が「母に心を蝕まれた結果、還暦で自死を選んだ」と、いまも自叙伝の執筆などに反対する母親が自分にしているのは「悪意の遺棄」と考えているのだ。おそらく彼女の“強がり”も裁判所内での結婚や再婚も、そして「早期執行の請願をします」と言うのも、すべて母親への当てつけや復讐なのではないか。

 本人はいまだに否定しているが、3人の男性の命をその手で奪ったのなら、それは許しがたいことであるのは確かだ。ただ、木嶋被告が母親を嫌い、同時に「私を否定しないで」と声なき声を出している姿は、どこか哀れでもある。いま「こじれる母娘」が増えているが、彼女はその極端なケースと言えるのかどうか。事件とは直接、関係ないかもしれないが、解明されていないことはまだ残っている。(香山リカ、345回)

☆かやま・りか 1960年札幌市生まれ。立教大現代心理学部教授。現代人の心の問題を中心に、社会批評など多彩な分野で活躍。「しがみつかない生き方」「『看取り』の作法」など著作多数。


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