エンタメ記者コラム

強烈な「反時代」のメッセージ 伝統芸継ぐ「孤狼の血」

2018年6月07日

 (c)2018「孤狼の血」製作委員会

 期待が半分、尻込み半分―。そんな怖い物見たさで映画館に足を運んだ。「孤狼の血」のことだ。冒頭から壮絶なシーンを見せられ、圧倒されてしまった。血なまぐさく、おぞましい暴力描写があちこちに盛り込まれており、手加減なんかしないぞ、という作り手や役所広司ら出演者の情熱がスクリーンからあふれんばかりだ。今の日本映画の中で、痛烈な異物感を放っていた。

 映画には、元号が代わる前、昭和63年の広島県を舞台にした暴力団抗争と、そこに深く関わる悪徳刑事の姿が描かれる。暴力や謀略、癒着や腐敗が渦巻く世界で、文字通り、生きるか死ぬかの極限状況の中をうごめく男たちや女の物語である。

 深作欣二監督「仁義なき戦い」(1973年公開)などのやくざ映画が執筆のきっかけになったという柚月裕子さんの小説が原作だが、原作よりもどぎついディテール描写が目立つ。暴力団と担当刑事の関係は、深作監督の「県警対組織暴力」(75)などを意識しているようだ。

 黄金期の名残があった「仁義なき戦い」のころ、映画界には自由とすごみがあった。バイオレンスやエロスなど、いかがわしさも含め多様な映画が作られていた。太平洋戦争や戦後の混乱期の記憶が、映画を作る側や観客の意識に色濃く反映されていたのだろう。最晩年の深作監督の撮影現場を取材したことがあるが、まさに映画に命を賭けているという執念が伝わってきた。暴力を取り上げた作品は反権力のスタンスに裏打ちされており、監督自身の戦争体験が投影されていた。

 やくざ映画というアウトローものは、日本映画の伝統芸といえる。鶴田浩二、高倉健主演作に代表される「義理と人情」の任☆(人ベンに峡の旧字体のツクリ)映画や、「仁義なき戦い」などの実録路線が人気を集めた後、その精神は、低予算の「Vシネマ」といったジャンルに引き継がれたが、劇場公開作品は減っていった。一方で、暴力描写で引き合いに出されることが多い北野武監督は、スタイリッシュな映像と「死の美学」で独創性を確立し、世界的な評価を手にした。

 そんな歴史の中で、「孤狼の血」はあえて深作映画の血を受け継ぎ、先祖返りしたわけだ。近頃、古い体質の組織は批判されてコンプライアンスだの、危機管理だのと内向きになり、消費者は健康や清潔さを指向している。こうした風潮に対する強烈なカウンターなのだろう。

「孤狼の血」は好評で、続編も製作されるという。舞台は、平成の時代へと移るのだろうか。白石和彌監督が「凶悪」(2013)、「日本で一番悪い奴ら」(16)で連続殺人事件や警察組織の腐敗を題材に描いた、人間の底知れぬ怖さ、不気味さはきわめて現代的だと思う。脈々と流れる伝統を受け継ぐと同時に、いまの時代とどうシンクロし、閉塞した空気に風穴を開けていくのだろうか、期待は高まる。(共同通信文化部・伊奈淳)


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