エンタメ記者コラム

歴史的瞬間に立ち会い「うわぁ」 是枝監督「万引き家族」がパルムドール受賞

2018年5月31日

 受賞後の記者会見に臨む是枝裕和監督=5月19日、カンヌ国際映画祭

 記者という職業は歴史的瞬間に立ち会うことができる―。入社して約20年、幾度となく聞かされてきた言葉ですが、今回ほど実感したことはありません。それは、第71回カンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の「万引き家族」が最高賞のパルムドールに輝いた瞬間です。

 授賞式は、12日間続いた映画祭の最終日、5月19日の午後7時15分(日本時間20日午前2時15分)からメイン会場「リュミエール」で始まりました。関係者はタキシードやドレスで着飾り、レッドカーペットを歩いて会場入り。世界各国から集まった記者は、第2会場「ドビュッシー」で巨大スクリーンに映し出される式の様子を見守ります。

 短編コンペティション部門の賞やカメラドール(新人賞)が発表され、さあ、お待ちかね、主要賞です。

 今年のトップバッターは女優賞でした。安藤サクラさんは十分可能性があると思っていたので、少し緊張して名前を待ちます。残念、受賞ならず。でも、「アイカ」の主演女優サマール・イエスリャーモワさんと聞き、納得です。つらく、重い役を、全編を通して演じきりました。

 続いて脚本賞。「ハッピー・アズ・ラザロ」(アリーチェ・ロルバケル監督)、「スリー・フェイシズ」(ジャファル・パナヒ監督)の2作に贈られました。「ラザロ」はもう一度見たいと思ったファンタジー作品だったので、心の中で小躍り。

 続いて監督賞です。これはあるぞ、と身構えましたが…。ふたを開けてみると、「コールド・ウォー」のパベウ・パブリコフスキ監督。時代や運命に翻弄される男女の愛を白黒で描いた良作で、劇中で女性が歌うある曲がずっと心に残ります。

 さらに男優賞、特別パルムドール賞と発表され、審査員賞。この賞は、是枝監督は「そして父になる」で既に受賞しています。2度目となるのか…。結果は「カペナウム」(ナディーン・ラバキー監督)。貧しい中、たくましく生きる少年が、ある理由から両親を訴えるという、熱量の高い力作。この作品がどの賞に食い込むかで、今年のカンヌの図式が決まると個人的には思っていました。

 授賞式は大詰めを迎えていますが、ここまで「万引き家族」は呼ばれていません。残すところ、審査員特別大賞(グランプリ)と最高賞のパルムドールだけです。グランプリは、スパイク・リー監督の「ブラッククランスマン」。この作品をパルムドールとみていた記者も結構いたようで、「となると、パルムは?」と会場は熱気を帯びます。

 いよいよ、その時が訪れました。いつもクールな審査員長、女優のケイト・ブランシェットさんが「今年のパルムドールは、コレエダ…」と言い始めると、後は歓声と拍手でかき消されてしまいました。

 少々こわばった表情で登壇した是枝監督はトロフィーを目の前にして、「うわぁ」。自然と漏れた言葉のように聞こえました。そして見ている私も「うわぁ」。世界各国の記者たちは納得のいかない結果だとブーイングをしますが、今年のパルムドールにはブーイングは起こらず、みんな温かい拍手を送っていました。

 日本映画としては、今村昌平監督の「うなぎ」(1997年)以来21年ぶりの快挙ですから、もちろん結果そのものが素晴らしいのですが、それ以上に、是枝監督が受賞スピーチで述べた「対立している人と人を、隔てられている世界と世界を、映画がつなぐのではないかという希望を感じます」という言葉に感じるものがありました。

 映画祭では、いろんな国や地域から多種多様な作品が集まります。それぞれの文化や風習、宗教観などを映した作品に触れると、いかに自分の価値観と異なるかを知ります。それこそが相互理解につながりますし、映画祭で最も大切なことの一つだと考えてきました。

 しかし、最近は少し、考えが変わってきました。もちろん、異なることを知るのは重要なのですが、それと同じぐらい、あまり変わらないということを知るのも大切だと思うようになったのです。

 いかに文化や風習が異なっても、高校生たちは恋に夢中になり、母と娘の関係は近いだけに難しく、男はいつの時代もうじうじしていて情けない…。私たちは実は大して変わらない。もっと言えば、同じだよね、と知ることも大事だと思うのです。映画はそれを教えてくれます。

 パルムドールを受賞した「万引き家族」は、東京の片隅にひっそりと暮らす一家を描きましたが、その背後に浮かび上がる、現代社会における家族の関係の希薄さや他者への無関心のようなものは、どの国でも同じだよね、と審査員に届いたのかもしれません。(共同通信文化部・不破浩一郎)


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