新刊レビュー

『ゴースト』中島京子著 聞いてほしくてそばにいる

2017年9月08日

 

 今ここにいない誰か(何か)にまつわる物語が、7編、束ねられている。

 軸になっているのは、戦争である。物語に登場する、亡くなった人たちや、今はここにいない人たちの多くが、何らかの戦争によって人生を翻弄されている。遠く懐かしい「リョーユー」と再会している(らしい)おじいちゃん。ドレスを縫い、もんぺを縫い、雑巾や布団や実用品を縫い、空襲に遭い、土の中に打ち捨てられた、1台のミシン。

 印象深いのは「キャンプ」と題された一篇だ。すでに何らかの戦争にやぶれ、行き場を失った日本人難民たちが、身を寄せあうキャンプでのひととき。3人の幼子と離れ離れになってしまい、後悔ばかりが主人公の胸を突き上げる。何が事実で何が妄想だかわからなくなるくらい、たくさんの思いがあふれて止まらない。

 常に腹ペコな幽霊のケンタと、母親のネグレクトによる生活苦に瀕している少女との交遊録は少し明るい気分にさせてくれる。日本人である主人公が、台湾からやってきた旅行ジャーナリストに誘われて、かつて日本の植民地だった台湾の留学生たち――のちに学徒出陣で半ば強制的に徴兵される――が暮らした学生寮を訪れるエピソードは胸にずしりと来る。

 それぞれの物語に共通しているのは、決して交わることのない、想いの浮遊だ。死んだ者から、生きる者への。生きる者から、死んだ者への。互いは互いを、想像することでしか結び合うことができない。きっとこんな想いでいる(いた)のだろうと、力づくで納得するしかない。

 そして本書は、7本目の『ゴーストライター』で意外な着地を見せる。登場するのは現代の編集プロダクションにやってきた新人女子。夜更けに、上司に誘われて入った小料理屋で、彼女は2人の「ゴースト」に出会う。死んでいった者たちの本音を、2種類、たんまりと聞かされる。胸に迫ったのは、2人目の幽霊が口にした寂しさだ。自分たちの言葉は、もう誰にも聞いてもらうことができない。どんな人でも、自分の話を聞いてもらいたいものなのだと。

 話をしよう。今、話をできる人と。いつか、できなくなる人と。私は今から、親に電話をしようと思う。

(朝日新聞出版 1400円+税)=小川志津子


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