東京アート日和

クエイ兄弟―ファントム・ミュージアムー

<写真1>『ストリート・オブ・クロコダイル』よりデコール《仕立屋の店内》1986年 (部分) photo©Robert Barker

<写真2>「シュトックハウゼンを完璧に口笛で吹く服装倒錯者」1967年頃

<写真3>つい写真を撮りたくなる、館内の螺旋階段

 たくさんの展示会を訪れる機会がありますが、素晴らしい作品を楽しむのに、展示環境もふさわしいものであってほしいと願うのは贅沢でしょうか? かつての茶人が、手に入った銘品を披露する場として茶席を設け、機会に合った掛け軸、お花、その他の調度品を選び抜いたことを考えると、特別なものを特別な環境で特別に見せたい・見たいと思うのは自然な欲求かもしれません。

 渋谷駅から徒歩15分。あのハチ公前の大交差点も、観光客で溢れるドン・キホーテも通り過ぎた所。瀟洒なビストロが並ぶ通りを横道に入ると、建物自体は決して大きくはないのですが、外壁に韓国産の花崗岩を使用した、存在感のある美術館が住宅地の中に現れます。

 東京・渋谷区立松濤美術館は、静岡市立芹沢銈介美術館なども手がけた白井晟一の建築。建物の中央を貫く吹き抜け空間が印象的な建物です。所蔵品は持たない美術館として、その空間に映える展示を選び、年に5回企画展を開催しています。今回の「クエイ兄弟―ファントム・ミュージアムー」もまさにそんな企画の一つ。タイトルからしてミステリアスな雰囲気が、建物と絶妙に調和します。

 1947年にアメリカ・ペンシルヴァニア州で一卵性双生児として生まれたクエイ兄弟。2人ともフィラデルフィア芸術大学に進んだのち、ロンドンに渡りロイヤル・カレッジ・オブ・アートに進学します。今回の展示では、大学時代の初期の鉛筆画から、ロンドンを拠点に制作されたアニメなどの映像作品、デコールと呼ばれるアニメーション制作の舞台装置など、兄弟の多彩な創作に触れることができます。

 平面から立体へ。静止画からアニメーション、舞台へ。表現方法は違えど、どれも普段の生活の何気ないワンシーンに歪みや不可思議な要素が忍び込んだような作品たち=〈写真1〉。もしかしたら、初めから歪んでいたのかも。いいえ、むしろ歪んだ状態が自然なのかもしれません。兄弟2人でこの不思議な世界を作り上げたということが、また新たな奥行きを加えます。

 大学時代の初期の作品、「シュトックハウゼンを完璧に口笛で吹く服装倒錯者」=〈写真2〉=では、リアルに詳細まで描かれた人物から、口笛が音符となってこぼれ落ち、カラフルな点々、ピエロのような頭飾りが非現実感を誘います。後年の多彩な作品の要素がすべて、この時点で凝縮されていたような気もするのです。

 クエイ兄弟にとっては現実を理解する手立てであったという制作活動。おあつらえむきの環境で、堪能してください。

【ちょっと立ち止まって】
 建築に興味のある方は必見の建築ツアーが、夜間開館のある毎週金曜日18:00~開催されています。ツアー参加者だけ特別に見ることのできる部屋や、白井晟一が当初計画していた展示室への入室ルートなど、美術館建築への理解が深まり、もっと楽しめるようになる要素がたくさんです。夜の美術館はどこかワクワクしますし、特に同館は夜に映えます。美術館巡りの最終地点にしても良いかもしれません=〈写真3〉。

【展示会情報】
◇「クエイ兄弟―ファントム・ミュージアムー」
◇場所:渋谷区立松濤美術館
◇最寄り駅:京王井の頭線    神泉駅 徒歩5分
      JR・東急電鉄・東京メトロ    渋谷駅 徒歩15分
◇開催期間:7月23日(日)まで
◇開館時間:10:00~18:00(金曜日のみ20時まで)
      ※いずれも最終入館時間は閉館の30分前まで
◇休館日:毎週月曜日(国民の祝日又は休日に当たる場合は開館)
      祝日又は休日の翌日(土・日曜日に当たる場合は開館)
◇入館料(税込):一般1,000円、大学生800円、高校生・60歳以上500円、小・中学生100円

2017年6月13日


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