東京アート日和

アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国

<写真1> アドルフ・ヴェルフリ 《 ネゲルハル〔黒人の響き〕》 1911年

<写真2>自室に積み重ねられた本の横に立つアドルフ・ヴェルフリ、1921年  (写真1・2)ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵 ©Adolf Wölfli Foundation, Museum of Fine Arts Bern

<写真3>東京駅丸の内駅舎内部の煉瓦

 少し、頭がくらくらして混乱するような、不思議な世界に誘い込まれてきました。東京ステーションギャラリーで開催中の「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」です。

 まずは、<写真1>をご覧ください。鉛筆と色鉛筆だけで、詳細に書き込まれた世界。有機的に広がるカーブの間にのぞく人の顔、音符、模様のような文字がその隙間を埋めていきます。

 正規の芸術教育を受けることなく、独自の表現を身につけたアーティストの作品は「アール・ブリュット」や「アウトサイダー・アート」と呼ばれ、この頃さらに注目が高まっています。その分野で世界的に高く評価されているアドルフ・ヴェルフリ(1864-1930)ですが、日本での知名度はまだ低く、初期から晩年作品まで辿ることのできる大規模な個展は今回が国内初となります。

 スイスのベルン郊外の貧しい家庭の7人兄弟の末っ子として生まれたヴェルフリ。早くに両親に先立たれ、芸術教育どころか普通教育を受けることも難しかったそうです。様々な挫折や喪失を経験したのち、未成年女子への虐待未遂という罪を犯し、その後統合失調症と診断を受けて精神病棟に収容されました。

 絵を描くことと出会ったのは35歳の頃。鉛筆1本を2日で使い切るほど絵の世界に没頭したそうで、「彼は今日も支離滅裂な妄想の世界を描いている」と語る当時の医師の診断書にも「でも、カーブや直線を描く技術は見事だ」と書かれています。

 壮絶な生い立ち話などはどうしても注目を集めがちですが、まずは作品そのものから発散される力にただ圧倒されます。迷いのない、美しい1本1本の線は工芸的な印象さえ与えます。それらがが絡み合ってつくりあげる混沌の世界。生涯でこのような綿密な絵を25,000ページも描くほど、というより描かずにはいられなかったほど、内側から溢れ出す創造力に突き動かされたヴェルフリの絵は観るものを動かします。

 最後に、東京ステーションギャラリーを訪れる魅力のひとつでもある駅舎(重要文化財)の内部の様子も、楽しんでください。1914年の東京駅舎の建設以降、関東大震災や空襲を生き延びた鉄骨、煉瓦壁が、展示室をつなぐ階段部分で間近に見ることができます=<写真3>。展示室内は、木製の床、煉瓦造りの壁に、地下を思わせるような暗めの照明。そこに展示される作品のもつ世界観と不思議に響き合います。

【展示会情報】
◇「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」
◇場所:東京ステーションギャラリー
◇最寄り駅:JR東京駅 丸の内北口改札前
◇開催期間: 6月18日(日)まで
◇開館時間:10:00~18:00(金曜日のみ20時まで)
 (いずれも最終入館時間は閉館の30分前まで)
◇休館日:月曜日
◇入館料(税込):一般1,100円、高校・大学生900円、中学生以下無料
 ※障がい者手帳持参の方は100円引き(介添者1名は無料)

2017年5月14日


バックナンバー

楽しむ

エンタメコラム
特選お役立ちコラム
中島麻希 信州FOOD記
成沢篤人 それはさておき、ひとまずワイン
横山タカ子 暮らしの調味料
東京アート日和
信州スポーツ
信州お天気手帖
今日の運勢
イベント情報
イベント情報投稿
映画館情報
書籍・CDランキング
パズル
グローバルメニュー
  • 信毎デジタルパスポート
  • 信毎の本オンラインショップ
  • 信毎イベント&チケット
  • 信毎オリジナルグッズ