東京アート日和

母がつくった子供服―インドから日本まで―

展示室の一角。右から日本、中国山岳地方、そして正面の壁のインド北西の砂漠コーナーへと続きます

トルクメニスタンの子供服。蛇と三角形が縫い付けられています。左に見えるのも三角形の魔除け

館長の岩立広子さん。苦労して手に入れたインドの子供服のコーナーで。一番初めに手に入れた子供服(写真右下)が、今見ても一番の出来だそうです

 子供服と大人用の服の、一番の違いはなんだか分かりますか? 「子供服には母親の祈りが込められてる」。東京・自由が丘にある岩立フォークテキスタイルミュージアムの館長・岩立広子さんは、そうおっしゃいます。「昔は乳歯が生えるまでが大変だったでしょう。弱い存在である子供を守る為のモチーフが多いです」

 インドを中心に世界各地の染織品7500点以上が集められたこのミュージアム。取材のお願いをしたのは前日だったにもかかわらず、館長自らご案内くださいました。1965年から一貫して庶民の手による美しい布を集めてこられた岩立さんのコレクションの中から、「子供服」に焦点を絞ったのが、現在開催中の「母がつくった子供服」展です。

 特に庶民の子供服となるとたいがいが着つぶされてしまうため、良い状態で入手するのが難しいそうです。貴重な資料でもある世界各国の子供服は、それぞれに土地柄や生活の様子を物語るものばかり。例えば、木綿、麻といった私たちにも親しみのある素材は日本や中国はもちろん、中東まで様々な地域で使われています。極寒のブータンの奥地ではヤクの、それもお腹部分の柔らかい毛を使った子供服。インド北西の砂漠ではらくだやヤギの毛など。ある地域で快適に過ごすための素材は、その環境で手に入るものなのだと気付かされます。

 また、岩立さんいわく「山奥で息を潜めるようにして暮らしている」中国の少数民族の、控えめな藍色を基調とした細やかな手仕事の隣に、インドの砂漠の民の太陽のような色が並ぶと、その鮮やかな対照に目を見張らずにはいられません=《写真1》。インド北西部の村の家々では、暗い屋内で小さな窓から漏れ入る光を最大限に取り込む工夫として、壁に鏡を埋め込んだり、ミラーワークと呼ばれる小さな鏡を衣服に縫い付ける刺繍が多いそうです。また、キラリと光を反射することで動物から身を守り、さらには他者からの邪視除けのお守りとして母親が願いを込めるものでもあるそうです。

 そういった地域性とは別に、たくさんの共通点もあることに驚きました。子供が無事大きくなるようにとの共通の願いから生まれた子供服には、同じモチーフが見られることも多いのです。例えば、蛇。白蛇などは日本でも魔除けや神の使いとして知られていますが、トルクメニスタンでも蛇のモチーフがみられます。「鱗紋(うろこもん)」として日本にも存在する三角形も、「魔除け」のシンボルとしてアフガニスタンなど様々な地域で見ることができます=《写真2》。

 そうそう、「プリーツ」もありました。でも、日本の制服のプリーツスカートの比ではありません。たっぷりとギャザーをとったスカートに、1センチにも満たない細かいひだを作り、折り重ねていきます。1本の棒のようになったら、紐で縛り上げて乾かすのです。お手製の細かいプリーツは、洗うと消えてしまうので、その度に母親が付け直してあげるのだそう。岩立さんが集めてきたのはそういった人々の生活のなかにある布です。だからこそ、布との出会いは、人との出会いなくして語ることができないのです。

 地元民も訪れたがらないインド奥地にある集落。嫌がるドライバーにお願いしてたどり着くと、「ここでは写真禁止だ」と猜疑心も露わに、男が銃を片手に向かってきたこともあるそうです。特に女性の写真に敏感なことから、「子供の写真しか撮らない」と説得し、なんとか撮影させてもらえたそう。また、どうしても欲しかった子供服を言い値のまま2着買い上げたときは、1着はしまってあったものの、もう1着は子供が着ていたものを脱がせていたので心が痛んだと言います。帰る時には「脇の下は汗でびっしょりだった」そうです。そんな生き生きとした岩立さんのお話を伺っているうちに、世界を旅している気分になりました=《写真3》。

 現在このミュージアムは週に3日しか開館していませんが、いつ訪れても見応えある展示があります。また、世界各地のアンティークの布や、ラオスでつくられた手紡ぎの綿の小物なども購入することができます。ミュージアムに勤めて15年になるという学芸員の廣田繭子さんも、情熱をもって手仕事の布の美しさを伝えて下さいます。ほんの少し前まで当たり前のように営まれていた暮らしから生まれた布、なぜそれが美しいのか。このミュージアムを訪れるなら、たっぷりと時間をとって、そんなお話しにも耳を傾けて下さい。

 参考:以前ご紹介した民藝館でのインドの刺繍の展示にも、同ミュージアムの所蔵品が多くありました
 <リンク> https://nano.shinmai.co.jp/enjoy/art_detail/?id=11

【ちょっと立ち止まって】
 岩立フォークテキスタイルミュージアムのある自由が丘は、スイーツの街として有名で、ちょうど取材に訪れた日も町じゅうでスイーツフェスタが開催されていたほどです。スイーツ好きなら一度は訪れたい街ですが、食べるだけではなく、作るのが好きな人は、「cuoca(クオカ)」をぜひ覗いてみてください。お菓子のデコレーションやラッピング資材が豊富に揃っていて、ほぼ食べる専門の私でも見ていて楽しくなります。イベントや店内での実演も頻繁にあるようです。

【展示会情報】
◇「母がつくった子供服」ー インドから日本まで ー
◇場所:岩立フォークテキスタイルミュージアム
◇最寄り駅:東急東横線・大井町線 「自由ヶ丘駅」 徒歩2分
◇開催期間:7月16日まで <期間中/木・金・土曜日 開館>
◇開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
◇休館日:日~水曜日
◇入館料(税込):300円


2016年6月03日


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