東京アート日和

「ウィーン美術史美術館所蔵 風景画の誕生」展

①ヨアヒム・パティニール《聖カタリナの車輪の奇跡 》 1515年以前 油彩・板

②[参考出品]ローワン・ワトソン 《プレイフェアの時祷書:ルーアンより、15世紀後期の装飾写本 (V&A,L.475-1918)》 出版:ヴィクトリア&アルバート美術館、1984年

③レアンドロ・バッサーノ (通称)《5月》1580-85年頃 油彩・キャンヴァス

 学校の美術の授業で、観光名所で、スケッチブックを広げて風景を描く様子は普段から見られますが、ヨーロッパの長い美術史の中で、ただ風景だけを描くというのはあまり一般的ではなかった、と聞いたら驚くでしょうか?

 美術と宗教は、その誕生から切っても切れない関係にあり、絵の主題が神話や聖書の中のエピソードになれば、自然と人物が中心となり、背景となる景色は架空のものがほとんどでした。

 美術史上初めて「風景画家」と呼ばれたというヨアヒム・パティニールは、15世紀末~16世紀前半にオランダで活躍した画家です。写真①の《聖カタリナの車輪の奇跡》では、主題であるはずの伝説の場面はぎゅーっと画面右隅に追いやられ、観る者の視線は、むしろその背景へと誘われていきます。景色が主題になりうる、という可能性を示した点でこの絵は革新的でした。“革新の国”オランダからこの絵が生まれたのも、偶然ではない気がします。

 今回の展示の見所のひとつである「月暦画(カレンダー・ペインティング)の間」では、イタリアはヴェネト州の山、モンテ・グラッパの麓の村で1年を通して行われる農作業を月毎に描いた大作などが展示されています。私が惹きつけられたのは、キリスト教平信徒が日々手元に置いてお祈りに使った「時祷書」(写真②)です。暦がきれいな字体で表されたページの縁を、どこかイスラム建築のタイル模様や、インドの更紗模様にも通じるような美しい植物模様が飾ります。神話や聖書の世界から一転、この部屋には、庶民の生活が詳細に、そして時にユーモアたっぷりに描かれた絵画と、平信徒が大切にした書物の参考書籍などが展示され、その美しさに心が動きます。

 日本の風景といえば、「東海道五十三次」はすぐに思い浮かぶと思います。作者の歌川広重は、「広重ブルー」と呼ばれる、美しい独特の青で有名ですが、写真①のパティニールも、その印象的な色使いで「青のパティニール」と呼ばれています。特に遠景を描く時などに欠かせない色であった「青」。それをいかに使いこなすかが、風景画家にとって、腕の見せ所だったのでしょう。

 日本の「風景画」をもっとさかのぼると、例えば雪舟の水墨画などは15世紀のものですし、人間のいない、動物や植物だけをテーマにした絵画・掛け軸は昔から多くあったようです。「風景画をテーマにした展示なのに、人間のいない絵は一枚もないのです。それだけヨーロッパは人間中心主義だということです」。今回の展示の監修者である木島俊介氏のこの言葉と照らし合せて考えると、興味深いですね。

☆お知らせ☆
このブログ読者の中から5組10名様を、「ウィーン美術史美術館所蔵 風景画の誕生」展にご招待します!
締め切りは10月21日(水)。 応募はこちらから。

【ちょっと足を延ばして…】
 展示室を出ると、「色で綴る日本の暦」と題して、京都の染司「よしおか」による展示空間があります。日本の四季を植物染めの絶妙な色合いによって表現した世界を、ぜひご覧ください。
 “奥渋谷”と書いて、“オクシブ”。Bunkamuraを出たら、東急本店を通り抜けて、本店の脇道を渋谷駅とは反対の左に向かって進んでみましょう。小さなコーヒー店やレストランが立ち並び、渋谷中心部の喧騒からも逃れることができると、人気を集めているエリアです。平行して走っている遊歩道の周りにも、多国籍の料理店が並んで、眺めながら歩くだけで楽しい休日散歩になります。展示の余韻に、美味しいコーヒーと共にゆったり浸りたい人にはお勧めです。

【展示会情報】
◇「ウィーン美術史美術館所蔵 風景画の誕生」
◇場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
◇最寄り駅:
 ・JR線「渋谷駅」ハチ公口より徒歩7分
 ・東京メトロ銀座線、京王井の頭線「渋谷駅」より徒歩7分
 ・東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線「渋谷駅」3a出口より徒歩5分
 ・無料シャトルバス:渋谷駅・宮益坂口(東急東横店)と本店(Bunkamura)との循環バスが、9:50~20:15の間に12~15分間隔で運転しています。
  [本店発10時~20時15分、東横店発9時50分~20時]
◇開催期間:12月7日(月)まで
◇開館時間:10:00-19:00(入館は18:30まで)
◇毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
◇休館日:10月5日(月)のみ休館
◇観覧料(税込):一般1,500円 大学・高校生1,000円 小中学生700円
 ※団体は20名様以上。電話でのご予約をお願いいたします(申込み先:Bunkamura Tel. 03-3477-9413)
 ※学生券をお求めの場合は、学生証のご提示をお願いいたします。(小学生は除く)
 ※障害者手帳のご提示で割引料金あり。詳細は窓口でお尋ねください。


2015年9月25日


バックナンバー

楽しむ

エンタメコラム
特選お役立ちコラム
中島麻希 信州FOOD記
成沢篤人 それはさておき、ひとまずワイン
横山タカ子 暮らしの調味料
東京アート日和
信州スポーツ
信州お天気手帖
イベント情報
イベント情報投稿
映画館情報
書籍・CDランキング
グローバルメニュー
  • 信毎デジタルパスポート
  • 信毎の本オンラインショップ
  • 信毎イベント&チケット
  • 信毎オリジナルグッズ