東京アート日和

カンタと刺子-ベンガル地方と東北地方の針仕事

カンタ 儀式用布(部分)19世紀後半 旧ベンガル地方 岩立フォークテキスタイルミュージアム蔵(写真提供・日本民藝館)

カンタ 儀式用布(部分)19世紀後半 旧ベンガル地方 岩立フォークテキスタイルミュージアム蔵(写真提供・日本民藝館)

上:あくと掛 昭和初期 山形県庄内地方 下:子供用足袋 昭和初期 山形県庄内地方 ともに日本民藝館蔵(写真提供・日本民藝館)

 家族のために、自分のために、着古した布や端切れに残糸を使って刺繍を施す。日本の東北地方では、かつて衣料品のあらゆるものに、補強の意味で刺子が施されていたように、旧ベンガル地方(現在のインド西ベンガル州とバングラデシュ)にも家族を温めるベッドカバーや、結婚の儀式などで使われた「カンタ」という独特の刺子がありました。

 女性が身にまとう白いサリーなど、古くなったものを3-4枚重ねた布に、日々の暮らしの中にある風物や、生命の樹やペーズリー柄など象徴的な模様が1針1針丁寧に刺繍されています。

 この2つの地域の美しい針仕事を、比較してみられるまたとない展示会が、日本民藝館で開かれています。

 日本民藝館は、私が今までご紹介してきた美術館の中でも、特によく訪れる場所です。他とどう違うかといえば、この美術館は陳列するものを明確に描いて設計された空間だということ。日本民藝館を設計し、多くの所蔵品の収集者であり、「民藝」の提唱者の1人でもある柳宗悦は、美は見つけられ、使い込まれることによって育つ、と考えました。

 つまり、完成したばかりの物が最も美しいとは限らない、ということです。美術館ですから、展示品に手を触れることは難しいのですが、それでも陳列棚、座ることのできる木製のテーブルや椅子など建物全体と調和しながら活き活きと展示物が並ぶ空間に、居心地よさを感じます。

 今回も、大展示室に入ると、まず圧巻なのが、ベッドカバーほどの大判の布が、ガラス越しではなく、広げられているところです。細かな手仕事の跡が文字通り目と鼻の先にあり、ひとつの作品を作り上げるのに費やされたであろう膨大な時間、その針を運ぶ様子が目の前に繰り広げられているようで、思わず感嘆の息が漏れます。

 そしてこぎんや菱刺など、日本の東北地方の刺子の展示空間。旧ベンガル地方のおおらかな模様や、ユニークなモチーフとは打って変わって、細かで几帳面な刺子模様に、寒い土地ならではの仕事をみることができます。

 しかしながら、こんなに遠く離れ、気候も風土も違うのに、布目を単純に拾って作られた刺子模様の中にはどちらの地方にも共通するものがあり、制約の中で生まれる手仕事と、それが美しくなる不思議を思わされます。

 当時のベンガル地方で、何かを所有する事も、買い物に行くこともできなかった女性たちにとって、着古した布に、色とりどりの糸を通すのはは至福の時間だったに違いない―と、岩立フォークテキスタイルミュージアムの岩立広子さんは仰います。それは、単純な「労働」を超えたものであったことは間違いないようです。だからこそ、誰もが感動する美しさを宿しているのでしょう。

【写真上】カンタ 儀式用布(部分)19世紀後半 旧ベンガル地方 岩立フォークテキスタイルミュージアム蔵(写真提供・日本民藝館)
観ているだけで楽しくなる色使いとモチーフ!毒蛇を食べている孔雀は縁起物だそうです。スカートにバッグ、と最新のファッションに見を包む女性も。これらの模様の間を、細かな白糸の縫い目が埋めつくします。

【写真中】カンタ 儀式用布(部分)19世紀後半 旧ベンガル地方 岩立フォークテキスタイルミュージアム蔵(写真提供・日本民藝館)
一方、こちらは抽象的な模様の繰り返しが美しいカンタ。偶像崇拝が禁止されているイスラム教の地域では、このように、より整然としたカンタが作られたようです。

【写真下】上:あくと掛 昭和初期 山形県庄内地方 下:子供用足袋 昭和初期 山形県庄内地方 ともに日本民藝館蔵(写真提供・日本民藝館)
こんな素敵な足袋、私もほしいです!そして「あくと」とはかかとのことだそう。かかとカバーなのですね。藍と白が生み出す細やかな刺繍のキリッとした美しさ。男性が身に着けても、きっと素敵でしょうね。

☆お知らせ☆
このブログ読者の方から2組(4名)様を今回ご紹介の展示会にご招待します!
締め切りは10月19日(日)。応募はこちらから

【お出かけついでに…】
<ミュージアムショップ>
展示を見ていると、ついつい「欲しい!」と思うものに出会います。思いのこもったカンタは、なかなか手に入らない…ものではあるのですが、会期中は、なんとコレクターである岩立氏ご本人が現地のマーケットを探し歩いて集めたカンタが販売されています。もちろんどれも一点もの。この機会に、ぜひお手にとって楽しんで下さい。

<東大でランチ!>
民藝館を出て徒歩1分。正門はす向かいの建物、東大駒場Ⅱリサーチキャンパスにあるイタリアンレストラン「カポ・ペリカーノ」は建物も新しく、芝生のあるテラス席は解放的で、東大には全くご縁のない私でも利用しやすいです。広々とした店内で、ゆっくりとランチを楽しめます。

【展示会情報】
最寄り駅:京王井の頭線「駒場東大前駅」西口から徒歩7分
開催期間:2014年11月24日(月・祝)まで
休館日:月曜(祝日の場合は開館し、翌日休館)
開館時間:10:00-17:00(入館は16:30まで)
入館料(税込):一般 1,100円 大高生 600円 中小生 200円

2014年10月03日


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